NATURAL
News Letter No.114
2017.09.01
「疲れない脳と体」を研究する
乳酸は疲労物質ではない!疲れない脳と体と才能発揮に関する日本のスポーツ界における常識は、残念ながらそれほどレベルが高くないように思われます。すでに、PedersenT.H.らが2004年に世界的な科学雑誌(Sciense20;1114-1117,2004)で乳酸は疲労物質ではないということを明らかにしているにも関わらず、日本では未だに疲労すると乳酸がたまって疲れると考えられています。一方、酸素を体にたくさん取りこんで運動能力を高めようと酸素の運搬体であるヘモグロビンを増やすために高地トレーニングがさかんに行われています。しかし、いくらヘモグロビンを増やして酸素運搬能力を高めても、その酸素を使う現場である脳や筋肉でヘモグロビンから酸素を切り離す2・3DPGが減少していては、何の意味もありません。はたして、血液中の2・3DPGが減少する条件やその影響因子に関する情報は聞いたことがありません。また、直接運動能力に関わり、疲労に伴って筋肉が弛む本体である血液中の炭酸ガスについても、リアルタイムのモニターによる訓練や、集中力の低下を招く脳の熱貯留現象に関する情報はあまり耳にしません。そこで、本節では、実用的な疲労のメカニズムとその解決法、心臓と体軸や手足の筋肉が弛むメカニズムと解決法に焦点をあて、解りやすく紹介します。脳と体の疲労には二つのメカニズムが存在する体を激しく使うと体に活性酸素が出現し、細胞の酸化によってFF(FatigueFactor)という疲労物質が出てきます。このFFはタンパク質の一種ですが、TGF-β(TransformingGrownFactor)というサイトカイン(免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質)を誘導することによって脳の神経伝達物質であるセロトニンが抑制されることが疲労の正体と考えられています。セロトニンは脳の中で、ドーパミンとともに考えや気持ちを生み出す重要な働きをしています。セロトニンが抑制されると、交感神経が優位になり緊張状態が長く続くので、疲労感が現れそこから疲労につながっていくのです。この疲労状態になると、脳は二つの方法で対応します。一つ目は、抗酸化作用を持つアミノ酸の一種であるイミダゾールペプチドを産出して、疲労回復物質であるFR(FatigueRecoverFactor)を増やし、疲労からの回復を図る方法です。二つ目は、脳内の疲労回復中枢である縫線核からセロトニンを放出し脳内神経伝達物質のバランスを整えて脳の疲労を回復させる方法です。したがって、疲労を取り除くには、疲労回復物質FRを睡眠・昼寝によって増やすことで副交感神経を優位にする。食べ物はイミダゾールジペプチドを多く含む活動量の多い動物の肉や回遊魚の赤身(鶏の胸肉、鶏のささみ、マグロやカツオの赤身)を食べ、その産生を促すスクワット運動や軽めの体操、ジョギングをすることです。一方、脳内にセロトニンを直接増やして頭を休める方法としてえ、好きな人やチーム仲間と楽しい会話をし、A10神経群の刺激によってドーパミンとセロトニンのバランスを整える事があります。
体の全ての筋肉を弛める血中炭酸ガスのコントロール疲労によってスポーツ選手の運動能力を直接低下させる原因は、影響が大きいものから順に血中炭酸ガス濃度・低酸素濃度・脱水・体の熱貯留現象です。水泳は無酸素状態が長い競技なので、私は競泳チームには、息を吐く事で炭酸ガスを体から放出した後にプールから上がるように指導していました。炭酸ガスを体の中に溜めたまま水から上がると筋肉が弛んでしまい、次の試合や練習で力を発揮出来なくなるからです。このような知識を持っていれば、疲れを持ち越す事無く試合に臨めるのです。ハードな練習をした後には、炭酸ガスを意識的に吐き出すとよいのです。方法は簡単です。吸気と呼気を「すーはーすーはー」と繰り返す。もしくは大きく吸って3回吐く「すーはっはっはっ」と吸気より呼気の時間を長くする呼吸法です。これを覚えておくだけで、体のメンテナンスが格段にしやすくなります。
参考文献:「勝負強さの脳科学」林成之著
とら食堂
こんなごはん、あんなおやつ、皆さまのおすすめレシピも教えて下さいね。
さんまの炊き込みご飯
材料(4人分)
さんま…1匹
米…360cc
水…380cc
*調味料
薄口しょうゆ…大1
みりん…大1/2
酒…大2
青ネギ、しょうが
作り方
①お米は洗って30分水につけておく。
②さんまは、内臓を取って半分に切り、塩を振り10分おく。10分経ったら水でしっかり洗う。もう一度さんまに塩を振って、香ばしく焼く。
③お米の水気をきちんと切って、土鍋などの厚手の鍋に入れる。
④③に水と調味料を入れ、軽く混ぜ、蓋をして強火。沸騰してきたら、弱火にして10分炊く。その後火を切り、10分蒸らしたら、さっとまぜる。
⑤④の上に焼いた秋刀魚をのせ、青ネギ、しょうがの千切りなどをのせて出来上がり。
なかがわ耳鼻咽喉科 院長福元晃先生のコラム
夜の街灯と植物
夏はほぼ毎年、白神山地のあたりに泊まりに行くのですが、夜は光が周囲にあまりないせいか、たくさんの星が輝き、手に取れるようです。最近、Natureという雑誌で少し気になる記事がありました。夜の人工的な光が生態系を破壊している可能性があるというのです(1)。
虫などの花粉媒介者、作物や野生の植物に授粉をしてくれるものが世界的規模で減っており、それには居住地の変化、集約農業、殺虫剤、外来種の侵入、病原菌の広がり、気候の変化が関連しているそうです。さらに近年、1年で6%の割合で急速に世界に広がっている夜の人工的な光が、新たな脅威になっている可能性があるということです。この記事では夜の人工的な光が夜間の授粉ネットワークを破壊し、植物の繁殖成功度に悪い結果を与ええることが実験で示されています。Cirsium oleraceumという植物を用い、半分は照明のある場所で、もう半分は照明のない暗い場所で、その植物を育て、授粉や繁殖を評価しています。すると、照明のある側では、照明のない側に比べ、花への虫の来訪者が62%減り、その種類も29%減ったそうです。それにより、日中は多くの虫の来訪者が花にあるにも関わらず、実のつきは13%減ったということでした。虫の来訪者が減った理由として、人工の光に虫が引き寄せられてしまったり、光により、その虫の生理学的変化、植物自体の変化などが引き起こされたりということが考えられるようですが、あまり研究がなされていません。夜間の花粉媒介者と昼間の花粉媒介者にもネットワークがあり、夜の光の影響は昼間の花粉媒介者にも広がるそうです。夜の光は、その強さが弱くても、その影響を及ぼし、街灯でも夜の花粉媒介者による授粉を壊しえるようです。ベイブリッジを走りながら見る東京の夜景は好きな景色の一つなのですが、ライトアップを行うだけでなく、今後は夜の光をコントロールすることも考える必要があるのでしょう。
1) Knop E et al. Artificial light at night as a new threat to pollination. Nature
2017;548:206-9